2014年6月9日月曜日

ニューヨーク旅行4日目 昼 「Les Misérables」観劇

2014年5月4日(日)

Les Misérables

 

4日目 昼
最終日の昼はインペリアルシアター(Imperial Theatre)にて「レ・ミゼラブル」
Les Misérables)を観た。色々悩んだのだけれど、当初の目当てだったレミゼを観るのは結局1回だけに。ブロードウェイは日曜夜にやっている演目が少なく、レミゼも日曜はマチネのみ。翌日には帰ってしまうし、「今日は主役が出られませーん」「公演中止になりましたー」と言われても別の回に振り替えられないという、危険なスケジュールなのである。


【劇場と座席について】
購入当時はディスカウントが無かったので、定価で購入。席はオーケストラの右サイド、F列10番。やや端寄りではあるが特に目立って見切れる部分もなく、舞台までの近さも充分に感じられて良かった。いくつかのシーンは上手側の観客席横から役者が登場するので、それも間近で眺められるという楽しみがある。ただしバルジャンがジャベールを解放するところは下手で進行するため、「俺的にはここが命なんだよ!」というマニアは下手側がいいのではないか。個人的に、レミゼはなるべく舞台近くで観た方が楽しいだろうと思った。

インペリアルシアターは大きかった…以外に特に言うことはない。トイレはものすごく混むようだ。メザニンのあたりにはいくつかTVモニターが付いており、そこに映ったオケピの様子を舞台上の役者が確認できるようになっているのだが、端っこの席からだと少し体を傾けるだけで視界の隅にモニターの存在を感じてしまうのが難点だ。

なお、私が観た7公演中、客のマナーが最も悪く落ち着かなかったのがレミゼだった。腹が立つとかふざけるなとか言いたいわけでもなく、「あ、一般的な観光客ってこういうところに来るんだ」と納得しただけである。遅れてくる人、飽きてしまって親に甘えはじめる子供、スマホをいじる人、おしゃべりする人、みんなここに集結していた…!! これまで見かけなかった日本人も皆ここに! 「マンマ・ミーア!」とか「シンデレラ」とかも多いのだろうなぁ。


【あらすじ】
みんな知ってるだろうからナシで。

【感想】

●おかしい…迫力が…あんまりない…? 心に訴えかけるものが少ない…?

意外にも、幕が開いてから次々と頭のなかに浮かんできたのは、そんな残念な感想ばかりであった。誤解しないでほしいのだが決して悪いわけではないのだ。そこは強調しておきたい。皆、もちろん歌がうまい。演技もうまい。旧演出に思い入れもないので新演出にも抵抗はない、はず。なのになぜだ?

1)観客のそわそわした空気が伝わってきて集中できなかった
2)当日は小さなトラブルがあり気持ちが焦っていて入り込めなかった
3)レミゼの動画や映画を観過ぎて飽きてしまった/慣れてしまった
4)単に私の好みではなかった(何かが)。

考えられる理由はこのあたり。確かに後ろでは小さな男の子が「ねーねー、あれ誰なの? なんで? 何してるの?」と小声で質問攻撃をしたり、座ったり立ったりを繰り返していて気になったが、彼のせいだけではないと思う。

なぜだか、音と歌に「目を離せないほどの迫力」を感じなかったのだ。まず、最初の「じゃっじゃーん♪」から音が足りない。私は聴力は平均より高いはずなので、本当に音が小さかったのか、座席の位置が音響的に良くなかったのか、私の体調または精神的な問題が原因かもしれない。でも物足りなく聴こえてしまったのは事実だ。主役のバルジャンを演じるラミン・カリムルー(私の好きな人)が熱唱しているパートや大人数でのコーラスなどはまぁそれなりにドキドキするような迫力があったものの、ガラスを1枚隔てて眺めているようで、「ふーむ、うまいけどこんなものかぁ」と妙に冷めて客観的な見方に終始してしまった。ゆえに歌詞の重みひとつひとつも、役者の表情も、キャラクターの感情もいまいち心に届いて来ることはなく、サラッと流れるようにフィナーレを迎えてしまったのがとても残念だった。でも泣いたんだけどね。

●素直に好きって言えない片思いの委員長タイプのジャベール

ひとりひとりの感想を。
ラミンはコンサートで生歌を聴いたことはあるけど、ちゃんと舞台を観るのはこれが初めて。やっぱり、そりゃあもう、うまいなぁの一言なのだけれど、独白で見せる感情の揺らぎや鋭い眼光、囚人時代からの野卑な部分とマドレーヌになってからの可愛くて品の良いところがあのムキムキの体に同居してるのが好きだ。少し若いかなぁという気はするけどね。ジャベールとの格闘やマリウスを担いでいくところなどは、やはりあの無駄に鍛えてある体が妙な説得力を持っている。

ジャベールを演じるウィル・スウェンソンも生で観るのを楽しみにしていた1人。私が大好きな「HAIR」(ヘアー)というミュージカルでは尻を見せたり全裸になったり色々はっちゃけているのだが、そんな面影はなくちゃんとジャベールだった(当たり前だ)。また、キャラクターとしてはバルジャンよりジャベールに興味のある私は、色々なタイプのジャベール演技を観るのが好きなのだが(フィリップ・クァストがベスト)、彼のジャベールは「真面目で神経質だがちょっと内気で、素直に好きって言えない片思いの委員長タイプ」という風に見えた。心が弱そう。ちなみに25周年のノームジャベールは「潔癖症の処女タイプ」と名付けているので、このセンスは特に気にしないでほしい。

全体的には見た目も歌も好みだったし、自殺シーンは少し涙腺が緩んだのだが、その直後にワイヤーで吊られてウワァァァァァ(渦巻くAA)となる演出が入ったため涙を引っ込めて笑ってしまった。新演出ってそんなんだったか。忘れていた。

なお、ファンテーヌの死後、バルジャンとジャベールが対決するシーンでは鎖を使って戦うのだが、ムキムキした体の男と粘着質な片思い乙女男が互いに感情をむき出しにして、こめかみを引きつらせ声を張り上げながら、鎖で手を縛ったり首を締めたりする……もう背徳の鎖プレイにしか見えなくてソワソワしてしまった。

ファンテーヌ役のケイシー・レヴィも「HAIR」に出ていた人だ。シーラも聖女っぽい役だが、彼女はそういう役が似合うんだろうか? 凛とした知性を感じさせるようなファンテーヌで、何となく都会的な品があるし「頭は良いけど少し頑固でコミュ力がなくていじめられた女」という印象を受けた。

エポニーヌは好きなキャラなのだが、特に印象には残らなかったのが残念。また、コゼットは元々自分の中で「空気」扱いなので注目していなかった。マリウスと出会う時の衣装がバッタにとても似ているので、そこだけきちんと確認した。
カイル・スキャットリフ(発音合ってるかな?)は予想以上にハンサムで格好良いアンジョルラスだった。かなりの高身長でアベセの中で異様なほど目立つし、佇まいにも歌声にも高いカリスマ性が感じられる。しかし困ったことに、彼がリーダーだと革命が成功してしまいそうなのだ。アンジョ役というのは「気さくなあんちゃん風」であれ「冷徹なまでに目標を完遂しようとする厳しいリーダー風」であれ、どこか空回りして足をすくわれそうな抜けた部分を感じることが多かった。それが、彼にはないのだ。話の中で浮いてしまうほどの格好良さというのも、困ったものだ…。

ところで私が常に気にしているDrink with Meにおけるアンジョルラス&グランテールのやりとりは、グラン歌い出す→to dieで周りから怒号→アンジョ飛んできて厳しくも心配そうな顔をしながら両肩に手を置く→抱きしめようとするところを感極まったグランが振り払って上手(かみて)に去っていく という流れだった。

マリウスでブロードウェイデビューしたアンディ・ミエンタスについては色々な評価があるようだが、私はポジティブに褒めたい。ファンの贔屓目というのは否定できないにせよ、彼のマリウスはだいぶ厳しい目で見てしまった今回のカンパニーの中で唯一、観ていて心から楽しいキャラクターだったのだ。これまでコゼットと同様に「あまり興味のないキャラクターリスト」のトップにいたマリウスをこんなに楽しめる日が来るとは! コミカルで愛らしく、現代っ子のような等身大の若者をのびのび表現している姿は、レミゼのマリウスという観点では減点対象でも、私にとっては非常に納得できるものだった。煩悩がまったく無さそうなしっかり者のアンジョ(大)と、この自己主張が激しくてやんちゃなマリウス(小)が並んでいる姿はちょっと面白い。

最後にテナルディエ夫妻。クリフ・サンダースと、キアラ・セトルのペアは見た目も声もインパクトがありすぎるほどあって(マダム・テナルディエはまさに出落ち)、宿屋のシーンも結婚式のシーンもこの2人が全部持って行ってしまった。宿屋のシーンは特に動きが多くコミカルだということもあって一挙手一投足から目が離せない感じで、そのシーンを観終わった後の満足度も高い。バルジャンの独白よりもBring Him Homeよりも、彼らのシーンの方が拍手が大きいのである。元々人気のあるキャラ&シーンではあるけれど、いいのかそれで。登場人物の誰よりも目立って場の空気をさらっていく2人を見て、ガラスの仮面の「舞台あらし」を思い出したのだった。

●それでも、もう1回観たい

色々と書いてきたが、決して面白くなかったわけではない。涙がじんわり浮かんでくるような場面もあれば、鳥肌が立つような瞬間もあった。それが持続せずに短く少ない回数で終わっただけで、一応ちゃんと感動する舞台なのだ。それに、舞台を近くで観ることの楽しさを一番強く味わえた作品でもある。

私は昨年、日本の帝国劇場で初めて日本版プロダクションを観たが、正直なところ、残念ながら特に心に残るものではなかった。それはキャストがどうというより座席が問題だったのだと思う。後方寄りのS席からはオペラグラスを使わないと役者の表情は判断できないし、アンサンブルが大勢登場して同時に複数の動きをするような場面も細かいところがよく見えず、ひとつひとつのシーンが心に留まらず流れていってしまった。また、オペラグラスを使うという行為は芝居への没頭を妨げるような気がする。

ところが今回、舞台の近くに座ってみると見え方が全然違う。表情はハッキリと分かるし、Lovely LadiesMaster of the Houseでも誰が何をしているか話の流れがずっと理解しやすい。帝国劇場では「何かやってるなー」程度だったものがきちんと肉眼で見えるようになることで、ここまで観賞の充実度が変わるものなのか!と。その発見だけでも満足だ。

そして「期待以下だった」というのは正直な気持ちだが、「また観てみたい」というのも嘘偽りのない願望である。別の日に、別の環境で、別の精神状態でもう一度観ればまた違った感想になるかもしれない。もちろん舞台とはたった1回の「生」で勝負するものではあるが、演じる側も観る側も毎日状態が同じではないナマモノだから、やはり確かめてみたいのだ。その時はどうか、もうちょっと私の心を動かしてくれたらいいなと、最後だけは甘ーく締めておこう。

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