※6回すべてに参加できる受講者募集はすでに締め切られているが、各回とも開講日の約1ヶ月前にWEBで予約(抽選制)を受け付けるので、9月に行われる「アートの料理人」「世界を見つめる映画館(ミニシアター)」授業への応募は今からでも可能だ。
4回目の開催にあたる今回のテーマは「ココロを揺さぶる球体(オーブ)~あなたのミュージカルぎらい、なおします!~」。ミュージカルが好きな人はもちろん、嫌いな人にも楽しみ方を伝授してくれるというので、いったいどのように洗脳してくれるのかと「ミュージカル苦手じゃなくて悪いけど…」と思いつつ申し込んでみた。このような企業PR的なイベントで何もかもぶっちゃけてくれるとは思わないが、来日公演の企画や劇場運営に携わる方の生の声を聞いてみたかったし、シアターオーブの見学をさせてくれるというのも魅力的だった。
授業は約2時間で、前半はヒカリエ8階にある「8/COURT(ハチコート)」という多目的スペースを会場に座学、後半は11階のシアターオーブに移動して劇場についての解説を聞くという二部構成になっている。そのうち公式サイトにもレポートが掲載されると思うが、この授業内容について感想と共に簡単に報告したい。
なお、メモをしっかり取っていなかった部分もあるので間違えて記憶していたり、勘違いしていたりすることもあるかもしれない。ところどころ端折って簡単に言い換えているところもある。誤った記述により当授業関係者の発言がマイナス方向に受け止められてしまうと困るので、気づいた方にはご指摘をお願いしたい。
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【第一部】
講師:
海野緑さん(東急文化村プロデューサー)
浮田久子さん(エンターテイメントライター)
和田由紀子さん(東急文化村舞台芸術事業部企画制作室)
ミュージカルの魅力って? 日本に呼ぶ作品をいつ頃選んでるの?
授業コーディネーターの佐藤さんによる挨拶と紹介の後、主に海野さんと浮田さんの対談形式で授業が進められた。まず、ミュージカルの魅力とはどういうものかについて。海野さんによれば、ミュージカルは「歌、踊り、演技(3つ目は違ったかな…)」の3要素が一体となったエンタテインメントで、スクリーンやディスプレイを通さずに<生>で観ることに意義があるという。映画の場合はどのシーンで誰をアップにして…と監督の視点で進むが、「今日はここに注目しよう」「あの格好いい人を観よう」という風に自分で視点を決めることができるのも舞台ならではの魅力である、とも。次に「ブロードウェイって何?」「ワークショップ、トライアウトって?」「オーディションってどんな風にやるの?」というようなミュージカル業界の基礎知識について映像やスライドを交えて解説があった。10年ほど前まではブロードウェイやウエストエンドなどに赴いて、現地で上演されている作品を観てから交渉に入るという方法がとられていたが、今はそれでは手遅れになってしまうのだという。ブロードウェイで上演される作品は大体3~5年かけて制作されるが、その過程の早い段階から目をつけて交渉する必要があるため、ワークショップに呼んでもらったり、遅くとも地方でのトライアウト公演の段階で交渉を進めるのだそうだ。また、その際は海野さん1人のプロの目に限らず「ミュージカルを知らない、普段あまり観ない人」の視点も重要視しており、性別や年代の異なる人にも一緒に観てもらうようにしているとのこと。
また、今回はシアターオーブという特定の劇場を軸にした授業でもあるため、「ブリング・イット・オン」と「ウォー・ホース~戦火の馬~」という今夏上演される2作品の紹介もあった。今上演中の「ブリング・イット・オン」は日本特別仕様のカーテンコールがあり、最後に客と役者が一緒になって踊るのだという。その振付を突然練習させられたので、「あぁ…きっとシアターオーブに移ってからこれを実際にやることになるんだ…」と容易に予測することができた。素直にはしゃげない人間で申し訳ない。
「ブリング・イット・オン」は全米の何十という都市を巡業するツアーカンパニーがそのまま日本にやってきている。ツアーの出演者はブロードウェイで出ている役者と比べると劣るのでは?と考えるかもしれないが、このようなツアーは次のスターを生む土壌であり、同行して来日しているプロダクションマネージャーはキャストの様子を毎週本国に連絡しているのだ、という話もあった。
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【第二部】
「ブリング・イット・オン」キャストが目の前で歌って踊る
休憩は挟まずにそのまま案内に従って11階のシアターオーブへ移動。「ブリング・イット・オン」の昼公演が終わったばかりで、舞台上には電光掲示板のよ うな装置がそのまま残されている。前3列目から順に着席し、全員揃ったところでサプライズとして「ブリング・イット・オン」キャストによるパフォーマンスが始まった。曲は「I Got You」だと思う。みんな若いなー笑顔だなー、しかしストーリーをよく知らぬまま一場面だけ抜き出してもあまり感情移入できないんだよなー、やっぱオーブはコーラスになると音が弱まる感じがするなーなどと思いながら観た。生の歌はやはり良いものだね。そしてそのままカーテンコールに移り、先ほど練習した踊りを実践する場面に。キャストの一部は客席まで降りてきてくれるのだが、私は想像していた以上にまともに踊ることができず(だって目の前にいたキャストは違う動きをしているんだもの!)落ち込んだ。キャストと受講者全員で記念撮影をして、次は座学へ。
講師:佐藤潤さん(舞台芸術事業部 劇場運営室)
多様な演出に対応できるように設備を整えているのが強み
シアターオーブのパンフレットを見ながら劇場設計についてのお話。「オーブ」という劇場名はかつての五島プラネタリウムのイメージを継承していることや、青と白の壁は空と雲をイメージしていること、ミュージカル専用劇場ということで歌だけでなくセリフが聴きやすくなるよう反響を抑えていることなどについて説明があった。音響について色々言われているのは知っているが…。興味深かったのは日本とアメリカのシアター設計の違いについて。国内の他の劇場にはないインフラを充実させることで、海外からどんな作品が来ても対応できるようにするのがシアターオーブの強みだという。例えば、日本の劇場は照明などの設備が固定されていることが多く、仕込み時間が短縮できるという点では便利なものの、演出によって必要になる照明や美術があっても理想通りに設置できないというデメリットがある。しかし、オーブは海外の舞台を招聘することを前提に設計しているため、本国でのプランの通り実現できるようにしているのだそうだ。具体的には舞台上に22mくらいの鉄パイプが25cm間隔で50本くらい並んでいて、そこに幕や照明を吊り下げるという仕組みになっているとのこと(こういう機構を「吊り物」というらしい)。公演中の「ブリング・イット・オン」も照明はアメリカから持ち込まれたものだという。
また、ステージの床は畳1枚分(海外ミュージカル向け劇場なのに単位が「畳」と言われるとちょっと面白い)ごとに取り外すことができ、そこにリフトや下から上がってくる階段を取り付けることが可能。今は「ブリング・イット・オン」のチアパフォーマンス用にスプリングの入ったやわらかい素材のマットのようなものが敷かれており、実際に舞台に上がってその上を歩かせてもらえた。
衣装とコンテナがずらっと立ち並ぶ舞台裏をぐるっと周りながら思ったのは、「ステージって意外と小さいなぁ」ということ。そういえば去年「Hair」のカーテンコールで舞台に上がった時も同じように感じたんだった。
最後に質疑応答の場が設けられた。回答は海野さん。
Q.ミュージカルにハマったきっかけは
A.岩手出身で、7歳の時に劇団四季の東北公演で「ジーザス・クライスト=スーパースター(鹿賀×市村)」を観たのがきっかけ。
Q.韓国ミュージカルは呼ばないのか
A.日本人にとっては日本語の次になじみがあるのは英語だと思うので、まず米国・英国中心にやっている。韓国作品についてまだ具体的に検討はしていない。
Q.日本の作品の場合はどうやって選ぶのか?
A.シアターオーブは海外作品専門なので日本の作品は扱っていない。
→これは質問した方が、シアターオーブで上演されている作品=シアターオーブ招聘作品と勘違いされていたのではないかと思う…「モーツァルト」とか「二都物語」とかを含めて。シアターオーブが企画・制作・招聘している作品と、ただ劇場を貸しているだけの作品と2パターンがあるのだと、最初に説明があったら分かりやすかったのでは。そんなの、普通は知らないよね。
Q.プロデューサーになるのに必要なものは
A.「好きな気持ち」が一番。英語力や契約書を読む能力なども必要だが、そのジャンルへの情熱が大事だと思う。
Q.来日ミュージカルは国内作品と比べて客入りが厳しいが、どう考えているか
A.一緒に考えていってほしい。来日公演の特徴は「最高峰のものが観られる」ということ。ただ、キャストが無名なのでその良さを伝えにくい。百聞は一見にしかずなので、まずは観て広めてほしい。どの公演も3週間くらいやることが多いが、それはこの間に口コミが浸透していってほしいという目論見がある。
Q.来日する外国人スタッフとのコミュニケーションはどうするのか
A.演劇専門の通訳の方がいる。また、日本の技術スタッフも何十人か一緒に働いているが、彼らの中にも英語ができる人は多く、直接やりとりすることもある。
Q.「この作品を日本に持ってきたい」と考えた時に、「日本では受けないかも?」と思って悩むような葛藤はあるか。
A.最初は好き嫌いを基準に観ていたが、実際は「好きな作品」を呼ぶのではない。「日本人ができるものは呼ばない」ということを念頭に置いて作品を選んでいる。また、性別や年齢の異なる色々な立場の人が観て楽しいと思えるものが良作だと考えて、そういう視点で選んでいるので葛藤はない。ただし、プライベートでは好きなものを観る。
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まとめ
行く前は「当選したけどちょっとめんどくさいなー、どんな人が集まるんだろう…」と思っていたものの、参加してみたら楽しかった…! 参加者は20~30代くらいの女性が多く、みなメモをとりながら熱心に授業を聞いていたのが印象的だった。第一部の最初にミュージカルへの興味について挙手でアンケートをとったところ、ほとんどがミュージカル好きの人で、そりゃそうだよねと。授業の内容は全体的に「シアターオーブでやるミュージカルの魅力」という感じで、プロデューサー業や劇場運営、業界のもっと具体的な話を知りたい人には物足りなかったかもしれない。みなミュージカル好きを自称するなら、もっとここを詳しく知りたかった…と思う部分もあったかも。でも、今回はシアターオーブのPRイベントなのだからそれで良いのだ。私は海野さんはじめ、文化村関係者の方が直接説明してくださるというシチュエーションだけで満足した。そこで働いている人の話を聞く、これって何のジャンルでもとても面白いこと。これがもうちょっと商業的なイベントで、ミュージカル好きの無名タレントが司会者とワイワイ語るというような内容だったらガッカリだよ。私にとってはサプライズではなかったけど(むしろ踊らされる方がサプライズだった)、「ブリング・イット・オン」のキャストを登場させるなどのファンサービスも、授業を楽しいものにしようという気配りが感じられて良かったな。
なお、今回のテーマは「あなたのミュージカルぎらい、なおします」であったが、総括すると「とにかく一度でいいから観てみて!!!」というのが結論という解釈でいいのだろうか。「突然歌い踊りだすのが気持ち悪い」という固定観念を解くために色々なミュージカル・音楽のスタイルを説明するという方法もあるし、ミュージカルがどのように作られてきたかという歴史や文化について解説するという方法もあるだろう。私は正直なところ「ブリング・イット・オン」の音楽や見た目やノリはあまりタイプではないので(観ていないので好きじゃないかは判断できない)、もし私がミュージカルが苦手だった場合、短いパフォーマンスだけ見せられても特に心は揺るがないかなぁと思った。頭でっかちでごめんね。テーマタイトル通り、ミュージカルを好きになるためのヒントをもっとたくさんの視点から示してもらえたら、さらに面白かっただろうなぁというところだ。
ただし、「なんでもいいから体験してみて」というのはわかる。客を増やすために一緒に考えてほしいとのことだったが、客の口コミに頼る以外にも劇場・企画者側からも料金システムや宣伝方法など色々な「新しいと思える」取り組みを示してくれると、こちらもさらに応援し盛り上げることができるだろう。そんなの私のような素人に言われなくても、とっくに考えて悩んでやっているのだと思うけどね。
シアターコクーンやオーチャードホールの回にも行ってみたかったなと思ったし、今後開催される授業にも申し込んでみたいと思えた。こうやってファンを増やしていく取り組み、評価したいなぁ。ただしル・シネマは改装してほしいけどな!!
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